本つげ櫛専門店「よのや櫛舗」みなさまのご来店をお待ちしております

本つげ櫛専門の細工処として、今からおよそ300年前の享保二年(西暦1717年)現在の文京区の地で創業し、大正初期に「よのや櫛舗」として浅草で継承しました。
時はまさに元禄文化の真っ只中。江戸や上方の町人たちによる経済・文化・芸術のめざましい発展をみた時代です。
当時の人々は、櫛を自分で使うことはほとんどありませんでした。それは髪結いさん、あるいは床山さんといわれる専門家たちの仕事。彼ら専業の職人さんたちに髪結い道具である櫛を卸す商売を始めたのが、「よのや」の事のはじまりでした。

明治の文明開化の時代になると、いわゆる断髪令の影響もあり、日本髪や髷(まげ)といった伝統的な髪型から束髪や短髪など現代に通じる洋風のスタイルが徐々に浸透していきます。
それは、個人が自分の手で髪を整えるという新たな習慣の普及を意味しました。その頃を境に、「よのや」は一般の人々への販売も行うようになります。
浅草・伝法院通りに店舗を構えた「よのや」は、令和の御世となった今日も、つげ櫛という古き良き伝統を今に伝える仕事に専心しています。

つげ櫛専門店だからできる、たしかな品揃え

「よのや」の店内には、大小さまざまのつげ櫛がところ狭しと並んでいます。つげ櫛を作るには、とても長い時間と労力がかかっています。ひとつひとつのつげ櫛には、数年単位の時間が刻み込まれているのです。
とはいえ、「よのや」は決して敷居の高いお店ではありません。初めての方でも、どうぞお気軽にご来店ください。つげ櫛の選び方、日常的な手入れの仕方、また和装の際に役立つ知識・作法など、よろこんでご案内差し上げます。
ご来店の際には、くれぐれも飲食物の持ち込みなどお控えいただきますよう謹んでお願い申し上げます。

店主メッセージ

江戸時代から代々続く老舗の櫛店「よのや櫛舗」。つげ櫛の職商人(しょくしょうにん)として、まずは長い時間の中で受け継いできたものを変えないことを一番に考えています。
言葉では簡単にも聞こえますが、昔と今では流れていく時間の感覚があまりにも違いますから、それは努力して築いていくしかありません。
その意味で、変わらないものを維持することは創造と似ています。つげ櫛という最終形をゴールとして、あらゆる工程を見直していく。彫りや漆の職人さんも代がわりがあると出来上がりも変わってきますので、「よのや」の屋号に恥じないものを作り続けるだけでも並大抵ではありません。

一方で、今は新しい時代の土台づくりをしているという認識もあります。古い価値がどんどんと退けられていく時代にあって、私の代がそれでもしっかりとこの営みを続けることができたら、きっと新しい世代にもその価値が理解されて伝わっていくと思うのです。
つげ櫛という古くて新しいものの価値をみなさんにも知っていただきたいし、そのように世界が変わっていく、その土台をつくるためにこそ私たちは精一杯努力を続けていくつもりです。

当主・斎藤悠、妻 有都